「パントン・カラー・オブ・ザ・イヤー」とは何か?その影響力と2025年の色「モカ・ムース」を徹底解説
デザイン、ファッション、インテリア業界などで毎年大きな注目を集める「パントン・カラー・オブ・ザ・イヤー」。これは単なるトレンドカラーの発表に留まらず、その時代のムードや人々の精神を映し出す象徴として、世界中のクリエイティブな分野に多大な影響を与えています。
本記事では、まず「パントン・カラー・オブ・ザ・イヤー」がどのように選ばれ、なぜこれほどの影響力を持つのかを解説し、続いて発表された2025年の色「モカ・ムース」について詳しくご紹介します。
「パントン・カラー・オブ・ザ・イヤー」の背景
パントン社とは?
パントン(Pantone)は、アメリカに本社を置く企業で、世界共通の「色の言語」を提供していることで知られています。同社が開発した「パントン・マッチング・システム(PMS)」は、印刷や製造の現場において、デザイナーが意図した色を正確に再現するための標準規格として、世界中で広く利用されています。この色見本帳は、グラフィックデザイナーやプロダクトデザイナー、ファッションデザイナーにとって不可欠なツールとなっています。
カラー・オブ・ザ・イヤーの選定プロセス
「カラー・オブ・ザ・イヤー」は、パントン社の一部門である「パントン・カラー・インスティテュート」が、毎年12月に翌年の色として発表するものです。この選定は、一人の専門家の好みや思いつきで決まるものではありません。世界中のパントンの色彩専門家たちが、グローバルな文化の潮流を分析するために、多岐にわたる分野を調査・研究します。
調査対象は、エンターテインメント産業や映画、美術展、話題のアーティスト、ファッション、あらゆるデザイン分野、人気の旅行先、そして新しいライフスタイルや社会経済状況にまで及びます。ソーシャルメディアのトレンドや、世界的なスポーツイベントなども重要な分析対象です。これらの徹底的なリサーチを通じて、世界中の人々が無意識に求めているもの、時代の精神(Zeitgeist)を象徴する色が選び出されるのです。
なぜこれほど影響力を持つのか?
発表された色は、翌年の製品開発や企業の購買決定に大きな影響を与えます。ファッション、コスメ、インテリア、家電製品、パッケージデザインなど、あらゆる業界のクリエイターたちがこの色をインスピレーション源とし、自社の製品やブランディングに採り入れます。
それは、この色が単なる流行色ではなく、「その時代を生きる私たちの集合的なムードや価値観を反映した色」という強力なストーリー性を持っているからです。企業はこの色を使うことで、自社の製品が時代の流れに沿ったものであることを消費者にアピールできます。このように、「カラー・オブ・ザ・イヤー」は色彩のトレンドを予測するだけでなく、自らトレンドを創り出す力を持っているのです。
2025年カラー・オブ・ザ・イヤー:「モカ・ムース」
こうした背景を踏まえ、パントンは2025年のカラー・オブ・ザ・イヤーに「モカ・ムース(Mocha Mousse)」を選定しました。パントン・カラー・ナンバーは「17-1230」です。

色が持つ意味と背景
今年のカラーであるモカ・ムースは、チョコレート、ココア、コーヒーの深い味わいからインスピレーションを得た、柔らかく暖かいブラウン系の色調です。この色は、現代社会が求める「日常の楽しさ」と、五感に訴えかけるような「感覚的な暖かさ(Sensorial Warmth)」を表現しています。
目まぐるしく変化し、デジタル化が進む現代において、人々は物理的な安らぎや本質的なつながりを求めています。モカ・ムースは、そうした人々の心に寄り添う、心地よく包み込むような温もりと安心感を提供します。
専門家による解説
パントン・カラー・インスティテュートのエグゼクティブ・ディレクターであるリアトリス・アイズマン(Leatrice Eiseman)は、「モカ・ムースは洗練されて豊かでありながら、素朴さも兼ね備えたクラシックなカラーです。従来のブラウンに代わる単なる色ではなく、『ラグジュアリーと熱望の色』として新たに定義しました」と説明しています。
また、パントンの副社長であるローリー・プレスマン(Laurie Pressman)は、「人々は自然とのつながりを求め、快適で居心地の良い環境を望んでいます。モカ・ムースは、そうした欲求に応える色です」と強調しました。このような背景から、モカ・ムースは人々の心理的な安定と生活の質を向上させるカラーとして位置づけられると期待されています。
多様な産業への広がり
パントンの「モカ・ムース」は、自然の有機的な特性を見せながらも、洗練された高級感を表現する色として、様々な産業分野で幅広く活用される見通しです。
- ファッション・ビューティー: 上質で落ち着いた印象を与えるため、アパレルやアクセサリー、コスメティック製品の基調色として人気を集めるでしょう。
- インテリアデザイン: リビング空間に温かみと居心地の良さをもたらす色として、壁紙や家具、テキスタイルなどに広く採用されることが予想されます。
- テクノロジー製品: スマートフォンや家電製品にこの色が用いられることで、冷たい印象になりがちなデジタルデバイスに人間的な温もりと高級感を与えることができます。
このように、モカ・ムースは多様なコラボレーションを通じて、私たちの生活のあらゆる場面に浸透していくことでしょう。2025年は、この色がもたらす穏やかで豊かな感覚に包まれた一年になるかもしれません。